【第1回勉強会】スクープはこうして生まれた―――森友報道を例に

◆ゲスト : 石井真知子記者(テレビ東京)
◆聴き手 : 下村健一 主宰
◆質疑応答(討論)スターター : 永田哲子(来年度キー局記者内定)

森友問題では、各メディアがそれぞれのアプローチから独自ネタの発掘を競い合ったが、その中でも異色だったのが、この話。「決裁文書改ざんを強要された」というメモを残して職員が自殺した、渦中の近畿財務局のOBたちが、6人も揃って顔出し・実名で語った、覚悟の証言インタビューだ。

他社が慌てて後追いしたこのスクープは、なんと「産休明けでほとぼりが冷めていた」「育児中で残業ができず、記者なら誰でも目を通すことができるある紙・・・からネタを拾った」という、石井記者の“二重のハンディ”の産物だった。

私達が《日頃の取材で何を見落としているか》があぶり出される、非常に示唆に富んだエピソード。聴講者は最初は唖然としつつ、聴くほどに皆勇気をもらっていった。

(下村・記)

聴講者の感想

ーー石井さんのタイミングは、顔出し取材を受け入れたOBの思いと上手に噛み合ったのだと感じ、私たちは時に「情報のはやさの価値だけに捉われ過ぎない」ことが大切なのかもしれないと学びました。(フリーライター)

――同じ女性の報道スタッフとして勇気づけられました。自分が置かれた状況を悲観せず、逆手にとってしまおうと気力がわいてきました。(キー局夕方ニュース番組ディレクター)

――(この研究会は)様々な報道機関の人達が参加している点は、切磋琢磨する場としても情報を収集する場としてもかなり有益と感じた。現役の記者、ディレクターだからこそ同じ悩みを持ち一緒に考える場になる予感がした。(地方局記者)

――自分の肩書・役割をいったん脇において、まずは人間として相手と向き合うことから始めようと思えたことで、少し心が軽くなりました。「番組のために社会がある」とならないように、それを阻止する最後の砦が現場で直接相手と向き合った記者・ディレクターなのだと思いました。(民放局ディレクター)

――「そこをもっと聞きたい」を思ったところを下村さんが聞きながら進行してくれたので、分からなかったところなどがなく、すっきりと多くのことを聞けた。そうした進行の様子も大変勉強になった。(言論系インターネット番組キャスター)

――どのように取材相手と信頼関係を築けばよいのか、実践に落とし込めるレベルで具体的に理解できた。(大手新聞社内定学生)

――令和メディア研究所の面白いところは、超実践的であるかつ具体的な取材技術を学べる点だ。(NHKディレクター)

――取材方法の異なる2つのスクープのお話は、記者のヒヨコとして迷いながらも前に進もうとしている僕にとって、とても勇気のもらえるものであった。(キー局新人記者)

――クローズドな講義だからこそ、非常にリアルなお話をしてくださり、生々しいお話から学びを得る場があることの喜びを感じた。(CSニュース番組キャスター)

【2019.8.9下村・追記】
石井記者のスクープは、自殺した近畿財務局職員の父親への単独初インタビューと組み合わせて放送された。そのインタビュー実現までの取材交渉プロセスは、メインの「OB6人証言」とは全く異なる道筋で、そのコントラストも聴講者の関心の的だった。

そして、昨日。この職員の自殺について、近畿財務局が「公務災害」と認定していたことが明らかになった。この漢字4文字の内実―――そこにどんな《1個人の苦悩》があったのかを炙り出したあの父親インタビューの真価が、今あらためて認識される。